賃貸物件の老朽化に伴うリスク
近年、異常気象の頻発により、老朽化した建物が被害を受けるケースが増えています。
賃貸物件のオーナーとして、建物の老朽化に伴うリスクを理解し適切な対策を講じることが重要です。この記事では、発生しうる事案と実際の判例をもとに、老朽化した賃貸物件のリスクについて詳しく説明します。
目次
事例:築45年の古いアパート
◆ 今回ご回答いただいた先生
弁護士法人 一新総合法律事務所
弁護士 大橋 良二 氏
まず、築45年の老朽化したアパートを所有するオーナーの相談事例です。
築45年の古いアパートを所有するオーナーからの相談です。このオーナーは、入居者からの賃料が少ないため十分な補修を行えていません。最近では地震も多発しているため、万が一、大地震などで建物が倒壊して入居者が怪我をした場合、オーナーが責任を負う可能性があるかどうかを懸念しています。
大橋氏は、このような相談は時々受けるとし、結論としては、建物があるべき性能を有していなかった場合や必要な補修を行っていない場合には、オーナーが責任を負う可能性があると説明しています。これは、民法717条に基づく「工作物責任」によるものであり、建物の設置や保存に瑕疵があり、それによって損害が生じた場合に占有者が損害賠償責任を負うという規定です。
※ 民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。(以下略)
裁判例:阪神・淡路大震災
この民法717条に基づき、責任を負った裁判例として、神戸地裁の平成11年9月20日の判決があります。阪神・淡路大震災により賃貸マンションの一階部分が倒壊し、賃借人4名が死亡した事件です。賃借人の遺族は、賃貸人・所有者に対して工作物責任に基づく損害賠償を請求し、その請求額は総額3億円を超えました。
この裁判では、オーナーの責任が一部認められました。裁判所は、建物が旧耐震基準で建てられていたにもかかわらず、その基準に照らしても建物が通常有すべき安全性を有していなかったと判断しました。そのため、賃貸人の工作物責任が認められ、賠償額は大規模な地震が原因となっていることを考慮し、5割減額して1億3,000万円とされました。
このケースでは、オーナーは築16年目に物件を取得し、築31年目で阪神・淡路大震災が発生したため、建築当時の欠陥によって1億3,000万円の賠償責任を負うことになりました。
定期的な点検とメンテナンスの重要性
老朽化した賃貸物件を適切に維持管理するためには、定期的な点検とメンテナンスが不可欠です。ここでは、フレンドホームの管理課が実施した事例を紹介します。
この事例では、駐車場の舗装工事中に通常の巡回では見つけられない不具合を発見し、大きな事故を未然に防ぐことができました。
駐車場の舗装工事をきっかけに発見した「駐輪場の腐食」
フレンドホームの管理課では、入居者のクレーム対応や修繕提案に加え、定期的に賃貸物件の巡回を実施しています。巡回では、日頃から建物や敷地内の状態を確認し、良好に保つことを重視しています。
今回の事例では、駐車場のアスファルト舗装が劣化していたため、オーナーと協議のうえ、舗装工事を実施することになりました。既存の舗装を剥がして新しく舗装する工事中に、駐車場敷地内にある駐輪場のスチール支柱が錆びて腐食していることが判明しました。この腐食は厚さ3cm程度のアスファルトで覆われていたため、通常の巡回では気づくことができませんでした。腐食が進んだ状態では、強風や地震で駐輪場が倒れる危険性がありました。そのため、駐輪場は舗装前に撤去され、現在は新しい駐輪場の設置が予定されています。発見が遅れていれば、人を巻き込む大きな事故に発展していたかもしれません。
見えない部分の点検強化と設備交換の推奨
スチール製の駐輪場や電灯設備など、設置から20年以上経過している場合、劣化が進んでいる可能性があります。フレンドホームでは、巡回時の点検項目を見直し、見えない部分の設備も点検するよう取り組んでいます。また、舗装の下など外見に異常がなくても、材質や経過年数を考慮して交換を検討することをお勧めしています。
この事例は、見えない部分にも注意を払い、定期的なチェックと適切な対策が重要であることを教えてくれます。重大な事故を未然に防ぎ、不安やリスクを取り除くためには、オーナーや管理会社が積極的にメンテナンスを行うことが不可欠です。
賃貸物件の老朽化に伴うリスクを軽減するための注意点
賃貸物件の老朽化に伴うリスクを軽減するために、以下の点を心掛けましょう。
定期的な点検とメンテナンス
建物の状態を定期的に点検し、必要な補修を迅速に行うことが重要です。特に、見えない部分の設備についても注意深く点検しましょう。定期的な点検は、物件の寿命を延ばし、予期せぬ事故を防ぐための最良の方法です。見えない部分の劣化は、表面上の異常がなくても進行していることが多いため、専門家による詳細な検査が必要です。
適切な補修と改修
古くなった設備や構造物は、外見に異常がなくても劣化が進んでいる可能性があります。材質や経過年数を考慮し、必要に応じて交換や改修を検討しましょう。特に、電気系統や配管、基礎部分など、建物の安全性に直接関わる部分は定期的にチェックし、問題があれば早急に対応することが求められます。
法律の遵守
民法717条に基づく責任を理解し、建物が通常有すべき安全性を維持するための努力を怠らないようにしましょう。法的責任を回避するためには、必要な注意を払い、適切な対応を行うことが求められます。オーナーとしての責任を果たすためには、建物の管理とメンテナンスを徹底し、法令に基づいた適切な対策を講じることが重要です。
専門家の助言
必要に応じて弁護士や建築士などの専門家に相談し、リスクを把握し、適切な対策を講じることが重要です。専門家の助言を受けることで、リスク管理がより確実になります。また、法律や建築基準の変更にも対応できるよう、最新の情報を常に把握し、必要に応じて対応を更新していくと良いでしょう。
保険の見直しと加入
賃貸物件のオーナーとして、地震保険や火災保険など、必要な保険に加入することも重要です。保険は、万が一の事故や災害に備えるための重要な手段であり、賠償責任を軽減するためにも適切な保険の見直しと加入を行いましょう。
長期的な維持管理計画の策定
長期的な視点で建物の維持管理計画を策定し、計画的にメンテナンスを実施することが重要です。建物の寿命を延ばし、安全性を維持するためには、定期的な点検と補修だけでなく、長期的な維持管理計画に基づいて予防的な対策を講じることが求められます。計画的なメンテナンスは、突発的なトラブルを未然に防ぎ、コストの削減にもつながります。
まとめ
賃貸物件のオーナーは、老朽化によるリスクを軽減し入居者の安全を確保するために、定期的な点検とメンテナンスが不可欠です。地震や異常気象などで事故や賠償責任が発生する可能性があるため、建物の安全性維持と迅速な補修が求められます。予期せぬ災害の損害を最小限に抑えるため、日頃からの管理強化が重要です。保険や専門家の助言を活用し、法律に基づいた適切な対策を講じることで、賃貸物件のリスクを効果的に管理し、安全で快適な住環境を提供しましょう。
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